息もできない【武藤昭平withウエノコウジ初体験】③
ステージ横から出てくるのかと思ってカーテンらきものを見つめていたら
どうやら入口からの登場らしい。
照明が暗くなり、二人が現れた。
・・・本物だ・・・・・。
固まってしまった。
本物だ。ウエノさんだ。
細い。黒い。脚長い。
歩いてる。
かっこいい。
笑ってる。喋ってる。
めちゃくちゃかっこいい。
そして最初の一音が出たとき、
硬直してしまった。
息が止まるかと思った。
聴きたかったウエノさんの音。
たまにライブで立ち尽くしてる人がいるけど
初聴の原爆オナニーズで踊りまくってしまうような私は、そういう人のことがあまり理解できなかった。音を聴いたら自然に体が動くでしょ、と。
でも今日初めて分かった。
動けない。
感動なのか衝撃なのか、わからない。
ベースを鳴らす姿。
椅子まで伝わる振動。
見逃したくない。
目に焼き付けたい。
忘れたくない。
この光景を当たり前にしたい。
曲は全部聴いたしノれるはずなのに、私はひたすら人の隙間から見えるウエノさんの顔、手、ベース、リズムをとっている膝を見つめていた。
そしてウエノさんが鳴らす音を、逃したくないと、固まったまま聴いていた。
トークは想像以上に面白くて、
その時は ふっと緊張が緩むけど
曲が始まるとまた息が止まりそうになって動けなくなってしまう。
その繰り返し。
今この時に、ウエノさんが存在し、目の前にいて、
色々積み重ねてきた今の年齢のウエノさんの音が鳴っていると思うと、涙が出てきた。
体を壊してから、別にいつ死んでもいいと毎日思っていた。同じ病気になった人なら絶対に分かってくれると思う。長生きなんて全くしたくない。早めに安楽死したい。苦しいことばかりだ。生きてる意味がわからない。消えた方がマシだ。
私には何もなくて、未来にも希望はないから。
今日、このバンドを見ることができてとても満足だ。
明日死んでも後悔しないな。
でも……
また絶対ライブ観たいから、生きなきゃいけないな。
そう思った。
生きなきゃという、はっきりとした思いを感じたのは自分でもびっくりした。
でもそのくらい、心を動かされた。
来て良かったと、心底思った。
ウエノさんの音、武藤さんの声、バンドの雰囲気に、救い上げられたような気がした。
ここで楽しくやってるから、また観に来てよ、と。
言われてるような気がした。
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ライブが終わって、武藤さんが物販ブースに入る。
ウエノさんは、ビール飲んでるからトイレに行く、という情報を事前に得ていた。
「武藤さん、ちょっと行ってくる」と声をかけ、ウエノさんが出ていった。
物販ブースには人が集まり始め、武藤さんもお客さんと話をしている。
今だ。
なるべく人がいるところで且つ流れがあるところ。
うまいこと合流し、カウンターにカップを返却、
出入り口の外にあるSunset Blueの看板を大急ぎで撮影し、会わずに出ることに成功した。
余談だが、前の会社で、上層部の人が来た時に自然に逃げるのがすごくうまいと褒められたことがある。会わずにうまくフェードアウトする。
きっと自分に迫る良くないこと対する察知力が高いんだろう。
発揮できる時が再び訪れるとは。
本当はグッズを買いたいしもっと前で観たいので、
いつか自分に自信がついたら堂々と参加しようと思っている。
その時は、ちゃんと目を見て、お礼を言いたい。
勝手にしやがれやレディキャロも行ってみたいなと思い、また沼が広がる気配を感じながら
帰路に着いた。
一夜明け、
『「好き」という高ぶった感情を押さえながら見た情報は記憶に残りにくい』を今回も深く感じている。
もともとポンコツだったのが、体を壊したせいで数分前のことも忘れてしまうくらい加速した。
記憶に定着させるには、何度か行くしかない。
年内にまた演りたいと言ってくれたので
それを楽しみに、生きようと思っている。
ウエノさん、武藤さん、
本当にありがとうございました。